はじめに
朝、淹れたてのコーヒーを飲みながら、ふと頭に浮かんだ疑問がありました。
『2017年6月7日、ドッドフランク法の見直し法改正案が下院を通過したが、もし実際に金融規制緩和が行われた場合、
ゴルディロックス(適温相場)と言われる現在の米国株の加熱リスクをさらに高め、再び金融危機の危険性を高める事にならないか?』
WSJを読み漁ったり、Google検索を駆使しても腑に落ちない・・そのモヤモヤを、ダメもとで識者の方に突撃&相談してみました。
今回ご相談したのは、銀行筋N氏(※)、証券筋X氏(※)、公認会計士Hiro氏です。
その結果、非常に丁寧な返信を下さり、めちゃくちゃ勉強になる知見を頂きました。
本記事ではせっかくなので、対話形式で内容をご紹介します。
(※N氏、X氏ともに、イニシャル・似顔絵は架空のものを著者が作成しました。実在の人物とは関係ありません。)
銀行筋N氏の見解
規制緩和により、金融機関が出来ることのひとつはシンプルに言えば自己勘定取引の拡大です。自前でバランスシートを活用し、投資ポジションをつくることができます。
確かに、株式をはじめ、あらゆる国に投資資金が回るかもしれません。加熱リスクは高まるでしょう。ただ、投資が活発になることで景気へ好影響を与える可能性も否定できません。
一方で、金融機関の抱えるリスク量もどんどん増えます。
そうすると、リスクの所在や管理はちゃんと出来ているのか?金融危機が起こったときにショックに耐えられるのか?また破綻沙汰に発展しないか?という懸念にも繋がってきますね。
現在、金融機関に対しては、世界的に自己資本制度が拡充されています。
例えば、金融機関自身が投資に失敗して資本が毀損しても、金融機関に投資している投資家もその一部を負担してよね、という制度です。
金融機関が危なくなったから国が介入する、というリーマンショックのときの二の舞にならないよう整備されているわけです。
厳しい規制により、求められる自己資本の水準も高く保たれています。
この規制や制度が大きく変わらない限りは、世界恐慌のリスクは以前よりもだいぶ低いと思われますが、関係者には規制緩和に否定的な人も多いです。
また、別の観点での話になりますが、トランプは、経済界に干され、共和党内でも孤立し、世界の中では中国にリーダーの地位を奪われつつあります。
金融界はこれから次第ですが、ここにも嫌われたら居場所はありません。
FRBは金融市場の大きな変動に繋がるような政策は反対でしょう、なおかつ金融監督庁も規制を緩めること自体には反対でしょう。
でも、経済へのメリットはおそらくある。今後の動向を見守るしかありません。
証券筋X氏の見解
レバレッジとプロップトレーディングの規制がどこまで緩むか、が鍵でしょうね。
銀行によるプロップビジネスが再び盛り上がれば、人材も金も再度そちらに流れる可能性が高いですからね。
ただ、これがどこまで金融危機の危険性を高めるかは疑問です。
リーマンショック以降の銀行側もリスク管理はかなり厳しくなったので。
個人的にはドッドフランクよりも、低金利を良いことに拡大し続ける与信マーケットを心配した方がいいと思いますよ。
リーマンショック時に問題になったMBSやCDO等のモーゲージ関連だけでなく、与信マーケット全体の拡大にもリスク要素が潜んでいるのですね。
公認会計士Hiro氏の見解
中小銀行に対する監視を弱めることはあるでしょうが、大銀行の資本要件やストレステストは引き続き求められると思います。
今は規制が厳しすぎて低リスクの債券にも追加資本を要求されるくらいです。
次期FRB議長候補の一人であったウォーシュ氏は現在の米国銀行のことを「なかば公益事業体」だと言っていました。
銀行は公的な役割が大きいので規制を掛けることは大事ですが、民間企業としての経営の自由さもないと競争力がなくなります。
程度に依るでしょうが、今の厳しすぎる規制を緩和しても信用バブルにはならないと思います。
2008年のような信用を創造してそれを証券化してガンガンoff balanceするなんてことはさすがにできないはずです。
むしろ、それが心配なのは中国の政府系金融機関です。
話が逸れますが、信用バブルのリスクは明らかに米国より中国です。
ボルカー・ルール緩和に関しても、リーマンショックの反省から、あまりにも厳しすぎて実情に見合わなくなっている法規制を、妥当なレベルまで緩める方向性なのだ、という理解の方が適切なのかも知れませんね。
米国株フルインベス派として、規制緩和リスクをsensitiveに捉えすぎていたのかも知れません。
こういう事を簡単にわかりやすく説明してくれるサイトがあると嬉しいのですが。
WSJなどは抽象的で難しい表現が多いです。
金融規制緩和もマーケットに影響を与える政治トピックではありますが、減税案の行方の方が関心は高いでしょうね。
今のマーケットがどれくらい減税を織り込んでいるのか、見当も付きません。
結論まとめ
結論から言うと、金融規制が緩和されたからといって、過度に加熱リスクを恐れる必要はなさそうです。
とはいえ今後、中長期的に見た場合、金融機関によるプロップトレーディング(自己勘定取引)の裁量権拡大、レバレッジ規制の緩和、与信マーケットの拡大といったリスクファクターも無視は出来ません。
ただ、これらの要素が経済にプラスの効果を与えうる側面もあるため、規制緩和そのものの善悪というよりは、さじ加減の問題なのかも知れませんね。
諸々、大変勉強になりました。
Nさん、Xさん、Hiroさん、ありがとうございます!!