はじめに
昼、焼きたてのサンドイッチを頬張りながら、ふと頭に浮かんだ疑問がありました。
『米国では、投資判断の上で、予想PERよりも実績PERを重要視する、という記載が「日経ビジネスオンライン」の記事(※)にあったが、それは事実なのか?
日本では、実績PERよりも予想PERの方を重要する傾向があると言われるが、それは非合理的なのか?』(※詳しくは上記事参照。)
Bloombergを読み漁ったり、図書館を探し回っても腑に落ちない・・そのモヤモヤを、決死の覚悟で識者の方に突撃&相談してみました。
今回ご相談したのは、銀行筋N氏(※)、証券筋X氏(※)、公認会計士Hiro氏です。
その結果、非常に丁寧な返信を下さり、めちゃくちゃ勉強になる知見を頂きました。
本記事ではせっかくなので、対話形式で内容をご紹介します。
(※N氏、X氏ともに、イニシャル・似顔絵は架空のものを著者が作成しました。実在の人物とは関係ありません。)
銀行筋N氏の見解
ただ、明確にお伝え出来るのは、株価は予想配当金(予想利益)に大きく左右されるということ。それに伴い、予想PERをどう捉えていくかが重要ではないかと個人的には考えます。
PERは、株価÷EPSです。EPSは1株あたり利益ですので、発生する利益に対して、株価がどの程度買われているかということを示します。(釈迦に説法ですみませんが、重要なことなので改めて。)
PERはその時のトレンドや他市場との相対感などから決まることも多いですから、ここではその適切な水準については言及しませんが、
PERが仮に同じ水準で推移するならば、企業の予想収益があがれば(予想EPSがあがれば)、株価も必ず上がるというロジックになります。
配当性向の引き上げはもちろんのこと、自社株買いも1株の価値を高めますから重要なポイントとなりますね。
米国株式市場は配当性向と自社株買いが牽引してきたとも言えます。
EPSは、企業が発表する予想利益ベースや、証券会社アナリストが推計する予想利益ベース、市場コンセンサスとなっている予想利益ベースと、いろいろパターンがあります。
それに伴い、算出されるPERも変わります。
実績も重要ですし、継続的に増配している企業の株価が高値推移してるのも事実ですが、
より株価変動に影響を及ぼすと考えられるのは「コンセンサス対比で、結果がどうだったか?」という点であると思われます。
従って、予想されるPERが自分の推計する水準よりも高いか低いか、市場が予想するPERがどの位置にあるのか、トレンドはどうか。
こういったことを総合的に判断する必要があると思います。
確かな実績を信頼し長期投資で安定キャリーを狙うなら実績PERを、株価変動を捉えてキャピタルゲインを狙うなら予想EPSを捉える。
そんなイメージでしょうか?意図されたお答えになっていなかったらすみません。
実績PERと予想PER、それぞれ成熟企業と成長企業で使い分けるという視点も、確かにスッと腑に落ちます!
証券筋X氏の見解
というのも、米国のセカンダリマーケットではEV/EBITDAを用いたバリュエーションが主流だからです。
PERも確かに使いますが、日本の投資家ほどは重視していないのが実情ですね。
PERの上下は利益モメンタムで大きく左右される上に、企業価値を表す指標ではないためです。
したがって、PERの予想ベースと実績ベースどちらが非合理ということではなく、両者は別物であるということです。
予想はあくまで予想でしかない訳ですからね。
公認会計士Hiro氏の見解
株価は将来の配当を反映して値付けされています。
やはり将来利益をもとにPERを算出したほうが合理的だと思います。
ただし、CAPEレシオという有名な数値があってこれは過去の利益を使います。
過去10年の利益を平均することで、年度による利益のボラティリティを排除できます。
米国では実績PERを利用するんですね~。その背景を知りたいところです。
実績PERを重視するという事は、ベクトルを未来ではなく過去に向ける行為で、ファイナンス理論の考え方と真逆ではないか?と感じました。
これが予想PERだったらもっと便利なのにな~と常日頃思っていたのですが、米国では実績PERを使うのがスタンダードなのですね。
株価が利益の何倍で取引されているかを見るためには予想PERの方が適切そうですが、過去と比較するなら実績PERを使い続けた方が確かに客観性は高いですね。
成熟企業であれば特に、実績PERを使った方が好ましい感じがしますね。
PERを時系列で比較して参考になるのは生活安定株くらいですかね。
個人的にはあまりバリュエーション評価にPERは使っていません。
もちろんチェックはしておりますが。
ところで、シラー教授が使うPER(CAPEレシオ)についてですが、
今のCAPEレシオは約31倍で、単純に数値だけ見るとかなり割高だと言われます。
最近バロンズでシラー教授のインタビューが掲載されていました。
シラー教授曰く、CAPEレシオは高いけど現在の市場は変動を乗り切るだけの力があると楽観視していましたよ。
成長企業と違い、実績PERも予想PERもそれほど乖離しないような成熟企業であれば、過去の実績を重視した方が合理的なのかも知れませんね。
結論まとめ
株価は予想配当金をもとに決定付けられる事を踏まえると、本来は予想PERを重視して使った方が合理的です。
しかし、実績PERと予想PERがそれほど大きく乖離しない、(生活安定株をはじめとする)成熟企業の場合は、実績PERを使った方が合理的かも知れません。
そのため、成長企業は予想PER、成熟企業は実績PER、といった使い分けが重要なのではないでしょうか。
英語版ヤフーファイナンスで実績PERが採用されている明確な原因は不明ですが、この辺りの事情も探っていきたいところです。
また、米国ではバリュエーション評価に(PERではなく)EV/EBITDA倍率を使うのが主流、という情報も気になりました。
(※EV/EBITDA倍率について、より詳しくは別記事にて。)
諸々、大変勉強になりました。
Nさん、Xさん、Hiroさん、ありがとうございます!!