はじめに
夜、シングルモルトをロックでちびちび飲りながら、ふと頭に浮かんだ疑問がありました。
『2011年8月5日「S&Pによる米国債格下げ」が起きて以来、ムーディーズとフィッチは米国株のAAA格付けを保っているのにも関わらず、
S&PだけはAA+格付けのままなのは何故なのか?これは、FRBの今後の財政健全化(バランスシート縮小計画)を信頼していない”という事なのか?(※)』
(※斜線を引いた箇所には、前提として著者の重大な誤解があり、後ほど訂正して頂きました。)
MORNINGSTARを読み漁ったり、新聞を読んでも腑に落ちない・・そのモヤモヤを、藁にもすがる思いで識者の方に突撃&相談してみました。
今回ご相談したのは、銀行筋N氏(※)、証券筋X氏(※)、公認会計士Hiro氏です。
その結果、非常に丁寧な返信を下さり、めちゃくちゃ勉強になる知見を頂きました。
本記事ではせっかくなので、対話形式で内容をご紹介します。
(※N氏、X氏ともに、イニシャル・似顔絵は架空のものを著者が作成しました。実在の人物とは関係ありません。)
銀行筋N氏の見解
非常にシンプルに言えば、これまで米国では、政府が発行した国債(借用書ですね)を中央銀行が購入して支えているという状態でした。
その分、資金が市中に溢れ返り、金融機関や投資家は資産バブルに近い恩恵に与ることが出来ました。
ただし、この結果、中央銀行が保有する国債の金額が膨れ上がってしまった。
FRBのバランスシートでは、資産項目は国債、負債項目は通貨・紙幣発行や銀行からの準備預金ですので、
文字通り「膨れ上がったバランスシートを一旦縮小するよ」というのがFRBのスタンスなわけです。
政府とFRBの独立性を保つためにも、また、FRBが市場に与えてきた多大な影響を緩和させるためにも、必要な措置ということでしょう。
なにしろ図体がでかい。影響が大きすぎるので、すぐさま正常な図体に戻せないから慎重にやりたい。
ペースによっては金利が急騰する為、市場は超びびった結果、バーナンキショックとかに繋がったわけです。
その反省を踏まえて、イエレンは慎重に慎重に対話を重視してきて今に至るわけです。
ちなみに、米国が抱える実質的な債務負担はこの数年そこまで変わっていません。財政赤字が続いています。
むしろ、米国はこれから減税策やらのため財政出動するわけです。財源をどう捻出するのか、のほうが重要です。
長い国債を発行して資金調達するという話も出てますし、借金はまた増えるかもしれない。
政策を打っただけ、経済が潤って、歳入が増えれば財政バランスは良化していきますから、S&P格上げの可能性は出てくるかもしれませんね。
尚、当然のことながら、格付け会社によって国の格付け手法が異なりますが、ここでは説明を割愛させて頂きます。
バランスシートの縮小も、急激にやり過ぎると市場にショックをもたらす危険性があるのですね。
だからこそ、過去のバーナンキショックの反省も踏まえ、イエレン氏はそれを慎重にゆっくり進めて来て今に至る、という事ですね。
質問時、政府財政とFRBを混同してしまっていた部分があり、大変失礼しました・・。
おまけトピック~FRBパウエル氏の手腕に要注目!?~
FRBに関連して、短期的にはパウエルの手腕ややり方に注目ですね!
イエレン氏と違って雇用面ばかり見るのではなく、経済実態もバランスよく見るでしょうから、意外とタカな面も垣間見えるかも知れませんね。
あとは副議長におそらくはテイラーが来ますから、ここでも若干タカ派です。
あと、経験豊富な重要人物が次々退任してしまうので、イエレンは何かしらの立場で留任させられるかもですね。
トランプ大統領はうまくコネクションを残しておきたいはずです。
証券筋X氏の見解
残念ながら、格付け会社の個別のレーティング判断までは不明です。
公認会計士Hiro氏の見解
米国は基軸通貨であるドルを刷れるという大特権を持っているので、格下げはやり過ぎだと個人的に思っています。
米国は紙幣を刷って、それで外国から物を輸入できる立場ですからね。
S&PがAA+に据え置いている理由までは分かりませんね。
一度引き下げた以上、財政赤字の縮小など客観的な成果がないと元には戻せないだけだと思います。
バランスシート縮小は特に関係ないと思います。
あれは単に米国内の資金量を減らす政策ですから、米国の財務安定性とは無関係です。
バランスシート縮小で債券利回りがもし急騰すれば、格付け引き下げリスクがあるのは米国ではなくドル建て債務を持つ新興国ですね。
でも議会で上限引き上げ通しちゃえばOKなら、別に問題なくないか?と一瞬思ったのですが、
「過去に間一髪の状況が3回あった」という記載がロイターの記事(※)で目に止まり、米国のデフォルトリスクも完全にゼロではないのかな、とも思い直した次第です。
>バランスシート縮小は特に関係ないと思います。
そうなのですね!バランスシート縮小は、赤字(借金)も減らして財政を健全化する流れの1つというイメージでいたので、そこは完全に誤解していました・・訂正ありがとうございます!
新興国のドル建て債務についても、以前ブルームバーグの関連記事を読んだのですが、いまいちピンと来なかったので、まだまだ知識を深める必要性を感じています。
アメリカは基軸通貨である米ドルを刷れますからね。
世界中のありとあらゆる商品等がドルで取引されているので、ちょっとドルの量を増やしたところで減価しませんから。
アメリカ最大の特権かと思います。
バランスシート縮小は財政健全化とはちょっと違いますかね。
あくまで金融政策の一環です。
これでアメリカの財政赤字が減るわけではないです。
バランスシート縮小を通じて借入コストが上昇して、借金が抑制されれば間接的に財政改善に貢献する可能性はあります。
ごめんなさい、このセンテンスを理解しようと努めたのですが、僕の知識不足で頭がパンクしてしまいました。。
バランスシート縮小は、「FRBが国債を買い→国債が満期を迎え→償還金は再投資せずに抹消」という流れだと理解していますが、これはFRBの”国債保有額が今後、相対的に減っていく”という事ですよね。
しかしこれは、FRBが国から(市場を通して)借金を返してもらう事で、”国の借金が減り、財政が健全化する”という直接的な帰結にはならない、という事でしょうか?
FRBが再投資を止めて国債保有額が減少しても、やはり財政改善にはなりませんね。
FRBが再投資を行わないことと、財務省の国債発行量は基本的に無関係ですので。
FRBはあくまでも国債市場での”一”投資家に過ぎません。
巨大な投資家ではありますが。
FRBを「私たち」に置き換えてもいいと思います。
「私たち」が国債保有額を減らしても、それが国の財政改善に繋がらないのは自明ですよね。
国債の買い手がFRBであっても同じです。
もし仮にFRBが国債を買わず、追加で国債発行できないならば、FRBの買い控えが財政改善に繋がるとも言えますが現実的ではないです。
FRBが国債の再投資を止めると、国債の需要が減少するので国債価格が下落する可能性があります。
それは金利の上昇を意味します。
その金利の上昇が国債発行を抑制することになれば、財政改善に繋がることもあります。
というか、バランスシート縮小とは金融引締め政策ですのでそれがあるべき姿です。
国家にかかわらず、個人も企業も金利が上がると借金を控えますよね。
ただバランスシート縮小はそれほど国債利回りに影響を与えないという意見が大半です。
しかし、FRBにとっても初の試みですので様子を見守るしかありません。
なるほど、「間接的に」というのはそういう事だったのですね!
FRBも公的機関というイメージが先行して、なかなか正確な理解にたどり着かなかったのですが、「私たち」と置き換える例えが大変分かりやすく、腑に落ちました。
確かFRBもルーツは民間企業なのですよね。
結論まとめ
僕は今まで、FRB(中央銀行)と米政府財務(各国政府)を一部、混同して捉えてしまっていた部分がありました。
日本でも安倍政権と日銀が緊密に連携してアベノミクスを推し進めて来た(※)背景があり、
どうしてもこの2つは「公的機関」として連携、連動するイメージが抜けていなかったためです。
(※もっとも、これに関しては日銀の独立性を損ねる、とする批判もありますが。)
しかし、そもそもFRB(中央銀行)と政府財務(各国政府)は「全く別」と理解しても良いくらいの違いなのだ、と認識を改めました。
債務上限問題を発端とするS&Pによる米国債引き下げについて、今後の格上げはあり得るのか。
「国債の格付けに関して、重要視すべきは政府財務であり、FRBのバランスシート縮小はそれとは無関係」という大前提を踏まえた上で、
今後の政府の財政政策次第では格上げもあり得る、という結論に達します。
とはいえ、FRBが”一投資家として”国債の再投資を控えると、国債需要の減少により国債価格が下落(金利が上昇)し、その結果、「国債発行の抑制」という形で財政改善に繋がる可能性はあるようです。
つまり、端的に言うとFRBも「間接的には」政府財務(財政健全化)に関係性を持ちうる、という事です。
この辺りの構図をまずは正確に理解するこどが、(本記事で掲げたような)疑問を解消する上での手助けになる、という発見が、最大の収穫でした。
諸々、大変勉強になりました。
Nさん、Xさん、Hiroさん、ありがとうございます!!